<コラム>  日本酒のうんちく 白鶴酒造㈱大阪支社 町田 利博

<コラム>  日本酒のうんちく                   

白鶴酒造㈱大阪支社  町田 利博

 朝夕の気温が下がり日本酒が恋しい季節に入り、日頃は日本酒を飲み慣れない私の友人や仕事で知り合った方たちからも、日本酒を飲みに行くお誘いを受ける機会が増えました。その際、秋冬の旬の季節料理も美味しくいただける店がいいというリクエストを必ず受けます。
 そこでふと疑問がわきます。何故この季節になると日本酒が恋しくなるのでしょうか?日本酒の旬はいつなのか?旬の料理と一緒に味わいたいと思うのは何故なのか?同じことを友人から質問を受けます。答えは単純明快に「今、美味しく感じるから」ということなのでしょうが、それには他の酒類にはない日本酒ならではの魅力があるからに違いありません。これからこのコラムで何回かに分けてその謎を紐解きたいと思いますが、「論より証拠」、今回は身近な料理で体験できる方法でご説明します。
 日本酒が本当に美味しく感じられるのは秋冬で間違いなさそうです。これは酒蔵で日本酒を搾ってから出荷するまでに起こる“熟成”が深く関係するのですが、今回は秋冬によく登場する料理との相性に着目して説明します。
 秋冬の料理の特長は、魚でいえば「旨みの強さ」「脂の多さ」です。産卵期の関係で春夏が旬の魚もありますが、寒ブリ、寒サバ、戻り鰹、秋刀魚、鮭、鱈など秋冬の方が食卓を賑わします。しかし、これらの旨みを蓄えた魚は死後、旨み成分の一つであるトリメチルアミンオキサイドという物質が細菌によって分解され、トリメチルアミンという「魚の生臭さ」、不快臭の原因物質になってしまいます。
 このトリメチルアミンはアルカリ性であるため、酸性である日本酒と口のなかで混ざることで中和され生臭みがぐっと軽減されます。また、アルコールが蒸発する際にトリメチルアミンが同時に揮発され「魚の生臭さ」を飛ばします。ビールやワインにも同様の効果はありますが、アルコール度数の高さで日本酒の方が優位です。更に熱燗にするとアルコールの蒸発が進むのでより効果的です。また、日本酒と他の酒類との大きな違いは、お酒の旨み成分の一つであるグルタミン酸の量です。米由来のアミノ酸が豊富な日本酒は他の酒類と比べてグルタミン酸の量が桁違いに多いのが特長です。このグルタミン酸は魚の最たる旨み成分であるイノシン酸と好相性で、この2つが出会うと瞬時に結合し旨みを増幅させます。鍋料理を作る際に魚の削り節やアラと混布や野菜で出汁をとるのは、魚のイノシン酸と混布や旬野菜のグルタミン酸が混ざると旨みが増すことを、舌が経験的に知っているからなのです。
 更に旬の魚の脂の多さも日本酒を美味しいと感じさせる大きな要因です。脂の美味さは「甘み」「コク」です。日本酒にはグルタミン酸の他コハク酸という旨み成分が多く含まれています。コハク酸は「まろやかさ」「ほんのりした甘さ」を感じさせ、温度が高いほどその効果は高まりますので、口のなかで料理と日本酒がまろやかに感じられコクが余韻となって広がるのです。
 ここまで書くと日本酒だけが万能なのか?という声も聞こえてきそうですが、ご家庭で試せる方法を紹介しますのでぜひ体験してください。
 はじめに、脂がのったブリやサバをしゃぶしゃぶで楽しんでください。日本酒の他、ビールやワイン、焼酎と一緒に味わってみてください。魚の生臭みが消え、旨みを最も感じるのは日本酒だと気づかれるはずです。次に鍋の出汁を飲んだ後に先程と同様にいろいろなお酒を試してみてください。もう一度、出汁と日本酒をおかわりされるはずです。熱燗なら尚更です。最後に出汁割りを楽しんでください。「上撰白鶴」のように甘みを感じる中口でクセがないお酒がベストです。熱々の出汁と熱燗を1:1で割って飲むと唸り声を上げるはずです。辛口の日本酒をお好みの場合は、出汁2:日本酒1の割合が程よい加減です。フグひれ酒のようなスカッとした味わいを感じます。
 これらのことは、寄せ鍋やおでん鍋と同じ原理で、鶏や豚肉のグルタミン酸、魚のイノシン酸、貝類のコハク酸が鍋のなかで混ざり旨みを増幅し合っているのです。日本酒を秋冬の旬の料理に合わせたくなるのは「口のなかが寄せ鍋状態」と同じになることを舌が憶えているからなのです。特に熱燗は効果的なので、日本酒も旬を迎えたように意識させるのだと考えます。勿論、ビールやウィンでも美味しくいただけますが、ビールの苦みやワインのリンゴ酸は味わいをシャープにし、料理の旨みを洗い流す作用に働きます。折角の旨みを洗い流すのは勿体ないと思いませんか?

 さて時事ネタを一つ、業界内で最も旬な日本酒をこっそりご紹介します。まずはそのお米のストーリーから。
 兵庫県三木市吉川町は全域が酒米の王者「山田錦」の最高の産地、つまり「特A地区」であります。山田錦は大正12年(1923年)に山田穂を母品種、短棹渡船を父品種として人工交配され、品種比較試験の結果、最も優れた米として選抜したものです。交配から13年後の昭和11年(1936年)に「山田錦」と命名されました。以来80年以上経過しましたが、今なお山田錦を超えたといえる米は現われていません。これ程長期にわたり王座に君臨する農作物の品種は極めて稀です。品種改良の常道は、優良品種と別の優良品種を掛け合わせて更に優良な子品種を得ることですが、残念ながら山田錦が優秀過ぎて、自分を超える子品種が生まれませんでした。
 そこで白鶴は原点に戻り、山田錦の兄弟品種のなかから兄を超える品種を探そうと考えました。平成7年(1995年)に70年ぶりに両親品種である母の「山田穂」と父の「渡船」を交配させました。それは阪神大震災の年の秋でした。最初に生まれた800株から数年間、比較選抜を繰り返し17系統を選択。吉川町の田圃の一角を借りて社員が田植えから稲刈りまでの作業を行いました。そして、ようやく山田錦に勝るとも劣らない最高の1株を見つけ、平成19年(2007年)に品種登録しました。「白鶴が自信をもって山田錦に引けを取らない兄弟米を届けたい」という想いを込めて白鶴錦と命名。交配から実に12年が経過、神戸は震災からようやく復興を果たし、震災前の活況を取り戻していました。
 もう一つの有名産地である兵庫県多可郡多可町の東安田地区は、白鶴錦と山田錦の母品種の「山田穂(ぼ)」が発見されたと言われている地域です。吉川で生まれた白鶴錦が酒米として本格的に栽培されるようになったのがここ多可町です。母の山田穂(ぼ)は良い酒米でしたが、背が高く茎が太く稲刈が大変でした。そこで背の低い短棹渡船と交配して長男の山田錦が生まれたのです。
 白鶴錦の籾と父の渡船を見比べると、渡船には長い髭のような突起物があるのがわかります。これは「ボウ」と呼ばれるものですが、長男の山田錦に受け継がれず、白鶴錦には遺伝しています。ボウは野生の米の特徴ですが、収穫や種籾を取るときに不便なので品種改良の過程で選別され、栽培品種でボウを持つものはほとんどなく現代米でも同様です。もし皆さまが田圃でボウのある稲穂を発見したら、それは白鶴錦か父の渡船かもしれませんね。
 この白鶴錦は当初から他の蔵元様にも使っていただくことを念頭に開発しましたが、今では全国各地の銘醸蔵で高く評価されご使用いただいています。以下は白鶴錦を使用された話題の銘柄です。  ■十四代 純米吟醸 白鶴錦 ■東洋美人 純米大吟醸 白鶴錦 ■東一 純米吟醸 白鶴錦 ■作 純米大吟醸 白鶴錦 ■雨後の月 純米大吟醸 白鶴錦 ■くどき上手 純米大吟醸 白鶴錦 ■梅錦山川流 純米吟醸 白鶴錦 ■白鶴 純米大吟醸 白鶴錦 ■白鶴 天空 純米大吟醸 白鶴錦   これらの商品は流通量が少ないため、めぐり合えば幸運といえますが、白鶴酒造では特別に「灘の生一本 白鶴錦」を季節・数量限定で発売いたします。協同組合Masters様を通じてご案内差し上げますのでこの機会にぜひご賞味ください。