日本酒のうんちく

<コラム>  日本酒のうんちく

白鶴酒造㈱大阪支社  町田 利博

 師走を迎え慌ただしい日々をお過ごしのことと思います。気付けばもう正月か‼という声が聞こえそうですが、最近は正月も営業する店が増え、昔と比べて正月らしさがなくなったという意見も聞かれます。更に正月も休めないパートの主婦が増えたことは家族団欒の機会が減り、日本の伝統文化の継承を危ぶまれる識者のコメントが散見されます。
 しかしその一方で、普段は日本酒を飲み慣れない若い人も含めて正月は日本酒を飲もうという意識や機運が高まり、コンビニエンスストアでの売上が大晦日夜から正月3日朝にかけて年間のピークに達します。
 今度の正月は令和初めての正月であることから、官民混じり様々なキャンペーンが行われ例年にない盛り上がりが期待されます。日本酒の需要と話題性も高まりが予測されますので、そこで今回は正月に飲む日本酒をご紹介します。
《正月に飲む日本酒》
御神酒(おみき/ごしんしゅ)
・・・日本酒は太古の昔から人が神様と交信するために必要なものと考えられ、大切な供え物として扱われてきました。そのお下がりは神様の力を宿し、無病息災の願いを叶える有り難いものとされ、現代でも神社の初詣などで参列者に振る舞われています。こうした伝統・風習に因み、自宅の神棚の供え物に体裁が良い「御神酒」ラベルを貼った瓶の商品が発売されいます。
鑑開き(かがみびらき)・・・神事の際に酒樽を御神酒としてお供えし、祈祷が済むと中の酒を参列者に振る舞う行事のこと。本来は新年の行事や仕事始めに行われる儀式を指しますが、「鑑」と呼ばれる酒樽の蓋を開けることに由来し、現代では催事イベントの樽開けも含めて「鑑開き」と呼んでいます。「樽酒」として瓶詰で市販されている商品は、この酒樽特有の爽やかな芳香をもち女性から高い支持を得ています。
お屠蘇(おとそ)・・・日本酒や味醂に屠蘇散と呼ばれる薬草を浸したもので、年頭にその年の無病息災と長寿を願い飲む酒です。その風習を残す家庭は減りつつありますが、年末になると店頭で屠蘇袋を見かけます。
祝い酒(いわいざけ)・・・正月は多くの風習や行事で構成される最大の年中行事で、そのほとんどを「めでたい」という言葉で括られる祝いの文化の象徴です。家族・親戚一同で正月を祝う風習が残るのは、一説には「数え年」が用いられた昔は元旦に皆が一斉に歳をとり一緒に喜びを分かち合ったからだといわれます。正月に日本酒の飲酒が増えるのは、国中で「めでたさ」が分かち合う光景がそうさせているのだと言えそうです。祝い酒に特別な決まりごとはありませんが、普段より高級な酒や縁起を担ぐ「干支ラベル」や「金箔入り」に人気が集中します。
《日本酒の種類の見分け方》
日本酒のラベルに商品特長が記載されていますが、専門用語は分かりにくいと思います。以下の説明を参考にしてみてください。
原材料による区分  
【純米系】
米と米こうじだけで製造されているため、一般に米由来のコクを感じる濃醇なタイプの酒が多い。
・純米酒・・・米、米こうじ、水を原料に製造した酒。「米こうじ」の使用歩合を15%以上と規定。(全体の米の使容量を100とした場合、米こうじを15以上使用しないと純米酒と表示できない)「米こうじ」は大変コストが掛かるが、日本酒の品質を左右する重要な原材料。純米酒表示がない「米100%の酒」は米こうじの使用歩合が低く、低等級の米も使用している場合が多い。
・純米吟醸酒・・・純米酒の規定に更に精米歩合60%以下(40%以上を削り落とすこと)と規定され、低温長期発酵により造られた酒。
製造コストがかかるうえ高度な技術が必要。リンゴやバナナのような華やかな香りをもち冷飲用に適す。
・純米大吟醸酒・・・純米酒の規定に更に精米歩合50%以下と規定され、低温長期発酵により造られた酒。米を半分以下まで削るため非常に贅沢な酒。  
デリケートな熟練技術を必要とし酒の芸術品と称される商品が多い。
【本醸造系】さらりとした口あたりで洗練された落ち着きのある味わい、爽やかなタイプの酒が多い。
・本醸造・・・米、米こうじ、水、醸造アルコールを原料に製造した酒。「米こうじ」の使用歩合を15%以上と規定精米歩合70%以下と規定。
醸造アルコールの使用量は白米重量の10%以下と規定。江戸中期に本醸造造りの原型が開発・発展。もろみ醗酵の末期に酵母の活動をコントロールし味わいを良くするほか、日本酒にとって有害な微生物の増殖を抑制する高度で優れた技術として継承される。
特に灘地方の酒は灘の生一本と呼ばれ江戸で爆発的にヒット、高級酒の代名詞と称された。
・吟醸酒・・・本醸造酒の要件に更に精米歩合60%以下と規定。低温長期発酵により造られた酒。製造コストがかかるうえ高度な技術が必要。
リンゴやバナナのような華やかな香りをもち冷飲用に適す。
・大吟醸酒・・・本醸造酒の規定に更に精米歩合50%以下と規定され、低温長期発酵により造られた酒。米を半分以下まで削るため非常に贅沢な酒。
デリケートな熟練技術を必要とし酒の芸術品と称される商品が多く、まさに杜氏の腕の見せ所。
蔵元の技術力を競う全国新酒品評会の出品酒も大吟醸酒が多い。
【普通酒】  上記の酒は特定名称酒と呼ばれるが、その特定名称酒に属さない酒。醸造アルコールを酒税法で認められる規定範囲内で地域や顧客の嗜好に応じ本醸造より多く使用したり、糖類・酸味料などで味わいを調整したものが多い。ご家庭でも晩酌の酒として定着し日本酒全体の7割を占める。
工程による区分  上記の原料による区分に以下の工程による区分を足し合わせて、商品名などに表示されることが多い。
例・・・純米大吟醸 生原酒  純米大吟醸+生酒+原酒
【原酒】 もろみを搾り日本酒ができた時点から、加水によるアルコール分の調整を一度も行っていない酒。一般にアルコール分が17%前後の酒が多いが、嗜好の変化や技術の発達でアルコール分が10%未満の商品も発売されている。米由来の甘みや酵母が生み出した香りを感じやすい。
【生酒/生貯蔵酒】 もろみを搾り日本酒ができた時点から一度も火入れ(加熱殺菌)を行っていない酒が生酒、生酒のまま低温貯蔵し瓶詰時に一度だけ火入れを行った酒が生貯蔵酒。搾りたての風味を味わえ、フレッシュで爽やかな風味の商品が多い。生貯蔵酒はより広範囲で長時間の流通を可能にした優れた商品。また、生酒のなかでも搾る際に圧力をかけず、ろ過袋から自然に染み出た酒を【あらばしり】と呼び、呼び名のとおり味わいの調和よりも突き抜けたフレッシュさを楽しむ商品として発売され人気をよんでいる。
【ひやおろし】 通常の酒は冬から春にかけて仕込んだ酒を火入れし、ひと夏のあいだ熟成させ、瓶詰時に行う二度目の火入れを行うが、【ひやおろし】は封切りしたばかりのタンクの酒の円熟味を楽しむために、瓶詰時の火入れを行わない酒。8月下旬から10月上旬にかけて発売される。
【新酒】 日本酒造りの1年のカレンダーのなかで、1年の始めに仕込みもっとも早い時期に出荷される酒。酒税法上の区分ではなく、ツウの間の定説。
日本酒の酒造年度は7月が期首であるため、7月に仕込み最短で出荷する生酒/生貯蔵酒などは8月中旬に発売が可能で、狭義ではこの酒を新酒に含むが、昔の名残りで日本酒の日である10月1日以降に仕込み、11月中旬以降から春先までに発売する酒を新酒と名付けることが多い。
元来は、秋から翌年の春にかけて仕込んだ酒がひと夏の間熟成され、次の秋から出荷される酒を新酒と呼んだが、生酒/生貯蔵酒の普及により現在のような解釈が広がった。新酒の規定に火入れの有無は無関係だが、イメージ戦略として生/生貯蔵酒で発売される商品が主流。

以上