協同組合Masters 小林 真紀子

<コラム> 協同組合Masters 小林 真紀子
『 ありがとう 』
「最近の若い者は・・・」。
5000年前メソポタミアの粘土板にこう記されていたといいます。
「けしからん」と続くのでしょうが、「素敵だな・・・」と大人の視線がポジティブになれば、社会はもっと広々するのでしょうね。
「小さな親切」をテーマに40年以上にわたって作文(主催:公益社団法人小さな親切運動本部)が募集されています。
その中から・・・・大阪府咲くやこの花中学校 2年木下 渚さんの作品。
「Thank you」
「Thank you」(ありがとう。)
電車の中で、ベビーカーが押されそうになった。
近くにいた私は、一生懸命腕を伸ばしてベビーカーをかばい守ろうとした。
私の隣に、観光客のような人がいた。金髪でブルーの目。
言葉にできないほどきれいな人。ベビーカーを押していたのに気がついた。その彼女が、私に深々と頭を下げてそう言ったのだ。
「You are welcome.」(どういたしまして。)
私は照れくさくて笑った。
朝の八時頃、ユニバーサルシティ方面の電車に乗っていた。学校がUSJの近くにあるからだ。
この電車は、通勤の人、通学の人、そのうえ遊びにいく人々が乗り込んでくる。
当然、電車は満員になる。学校の帰りも、同じように満員電車。
でも、なぜかその日は、行きと同じかばんが普段より重く感じた。目の前が、急にぼやけてきた。
のどの奥から、酸っぱいものが出そうになった。私は思わず、制服の袖を口に押しつけた。
冷や汗まみれの私は、苦労して高い吊り革を握った。それでも、腰をかがませないと立っていられなかった。
「Sit down please. Are you OK?」(座ってください。大丈夫ですか?)
どこからか、かすかな声が聞こえた。びっくりして、ゆっくり顔を上げた。
目の前に、しわいっぱいのおばあさんがいた。肌は黒くて、外国人のようだった。
おばあさんは、腰を浮かしながら、私を手招きしてくれた。
こんなお年寄りに席を譲ってもらうなんて、恥ずかしい。
朝は、ベビーカーを手伝った私なのに……。
そのときは、具合が悪くて何も言えなかった。ただただ、首を小さく横に動かして、遠慮した。
「Please. Please.」(どうぞ。どうぞ。)
おばあさんは倒れそうな私を支えるように、私の背中を席までゆっくり押して、座らせてくれた。
しばらくすると、少し元気になった。しかし、恥ずかしさが増していった。
おばあさんは、もっとしんどいかもしれない。席を譲ってもらって、本当によかったのかなあ。
「Please sit down.」(座ってください。)
いろいろと思っているとき、私の隣に座っていた男の子が、おばあさんに声をかけた。
ランドセルを背負っている、とてもかわいい小学生だった。
「Thank you.」(ありがとう。)
おばあさんは、ほほえんで席に座った。
私も心の中で、その男の子に(ありがとう)と言った。